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ウエルベック『素粒子』(野崎訳)についてのメモ –オクト・ギガバイトとは?–

訳に気になった点があるので書き散らしておく。感想は別記事として書く予定。
なお、訳文はちくま文庫(う-26-1)の第4刷(‘14年3月20日)のものである。

四〇オクト・ギガバイトのデータを収めたDVDを三枚…(p. 400)

Il avait emporté trois DVD, représentant plus de 40 gigaoctets de données.

強調筆者

一読して全く意味が分からなかった。フランス語ではoctet(s)でbyte(s)のことを指すらしい1ので、英語に置き換えれば40GB of dataとなるのだろう。
gigaをギガバイトの意味で取って、octetをオクトにしてくっ付ければこの訳になりそうだが、どうしてこうなった…?

限定相対性理論を生み出し…全般的理論を…(p. 405)

le principe de relativité restreinte, à élaborer une théorie générale de la gravitation,

同上

前後の文脈からも明らかだが、限定相対性理論は特殊相対性理論のことを言っている。ドイツ語や英語では(theory of ) special relativity、フランス語やイタリア語では上に示したようにrestricted relativityに相当する語が使われている。(そもそも、specialの語を制限するという意で使っていることは1916年の論文でEinstein自体が認めている。ただ、世界的には「特殊」の方が広く使われているという2。)
なので訳としては正しいが、やはり日本語では特殊相対性理論が通用しているので、そちらで訳出したほうがよかったのではと思う。(特別に限定〜のほうをとる必要のある文脈ではなかった)

先行研究

これを執筆中に、誤訳を指摘するAmazonレビューを発見した。自分の指摘しようと思っていた誤訳らしきものの残りはここにあるので、リンクすることで指摘の代わりとしたい。ハイパーテキスト様々である。

ところで、

P.193で、「神経終末」→「末梢神経」。これも、中学の理科レベル。

誤訳だらけです。

この指摘は、原文でも神経終末を意味する単語であることを考えると、(少なくとも訳が正しいかどうかにおいては)誤った指摘だと思う。
それ以外の指摘に関しては、一通り確認したが、概ね私も同意する。(人名や外来語の表記揺れをあそこまで言うのどうかと思うが。)

加えて、この記事も紹介しておこう。

誤訳の旅/ミシェル・ウエルベック『素粒子』:レーユヴァルデンは何処にあるのか

表題で指摘されているのは文庫では69ページの箇所だが、変更はされていない。胎児冷凍庫という不自然な表現も健在である。


  1.  gigaoctet — Wiktionnaire, le dictionnaire libre↩︎

  2. 「すごい物理学講義」(河出書房新社) p.59 ↩︎